第951回 リトアニアに連勝(1) 代表監督の座が危ういレイモン・ドメネク監督
■ワールドカップ予選で出遅れたフランス、快進撃のリトアニア
今年のフランス代表の最大の目標は2010年のワールドカップの出場権の獲得である。昨年の秋からワールドカップ予選を戦っているが、フランス代表は大苦戦である。グループ7で3試合を消化して1勝1分1敗である。グループ7の現在の順位は1位セルビア(3勝1敗、得失点差+6)、2位リトアニア(3勝1敗、得失点差+3)であり、フランスは3位にとどまっている。フランスは消化試合数が1試合少ないが、セルビア、リトアニアの勝ち点は9でありその差は5、すなわち消化試合数が同じであったとしても3位以下なのである。
そのフランスは3月28日と4月1日にリトアニアと連戦する。リトアニアは欧州の中堅国であるが、ここまでアウエーのセルビア戦で敗れただけで、ホームでオーストリア、フェロー諸島に勝ち、アウエーでルーマニアを倒している。予選開幕前はグループ内で3番手あるいは4番手という評価であったが、それを覆す快進撃を続けている。
■予選期間中に監督が交代した1990年ワールドカップ予選
そのリトアニアと連戦するフランスは、年明けに唯一行ったアルゼンチンとの親善試合も敗れており、調子は決してよくない。4年以上代表監督の座にあるレイモン・ドメネク監督はワールドカップ・ドイツ大会で準優勝したものの、昨年の欧州選手権では惨敗、さらに今回のワールドカップ予選も苦戦している。何度となく更迭論も湧き上がったが、代表監督の座に居続けることができるのは、代表チームに対する世間の注目度が低くなったこと、そして有力な代表監督の後任がいないこと、ということに救われているであろう。これまでにフランス代表監督がワールドカップや欧州選手権の予選中に解任されたのはたった1回、1990年ワールドカップ予選期間中に更迭されたアンリ・ミッシェル監督だけである。1988年9月に始まった予選では初戦でノルウェーにパリで1-0と辛勝し、第2戦でアウエーとはいえ、キプロスと1-1とドローに持ち込まれた。この結果を重く見てミッシェル監督を更迭し、後任にミッシェル・プラティニを起用したのである。しかしながら監督経験のなかったプラティニ監督は就任後はミッシェル前監督以上の苦戦を強いられる。就任した翌月のデビュー戦となるアウエーのユーゴスラビア戦では2-3と敗れ、その後も予選では3試合連続して勝利できず、ようやく翌年10月のスコットランド戦で勝利、実に就任以来ほぼ1年、5試合目にして勝利をあげたのである。
■予選期間中の監督交代は大きなリスク
プラティニはその後チームを立て直し、ワールドカップ出場もあと一歩、そしてそれに続く1992年欧州選手権ではスペイン、チェコスロバキアという強豪と同じ組での予選で8戦8勝という成績を残しており、決して悪い監督ではなかった。しかしながら予選の途中で監督を代えることがいかにリスクをはらんでいるか、歴史は証明している。また、ミッシェル監督の後任として国民的英雄であったプラティニのような存在が現在いるわけではない。確かに同じようなポジションにはジネディーヌ・ジダンが存在するが、代表監督のタイプではないであろう。
このように消極的な理由が重なり、ドメネク監督はそのポストを追われずに済んでいるが、今回のリトアニア戦は大きな山場である。このリトアニアとの連戦を1勝1敗で終われば、リトアニアとの差を詰めることができない。2勝することがノルマであるといえよう。リトアニアとの勝ち点の差は前述のとおり5であり、連勝してようやく1上回ることになるのである。
■リトアニア戦後は日程があくフランス
また、ドメネク監督にとって気になるのはこのワールドカップ予選の日程である。フランスは、リトアニアと中3日で連戦した後は、8月12日まで予選の試合がない。また、この8月12日の試合の相手はフェロー諸島であり、グループ7での最弱チームであり、実質的に次の試合は9月5日のルーマニア戦になるであろう。つまり、このリトアニア戦の結果を受けて新監督を選んでも次の試合まで十分な時間がある。21年前のプラティニ監督の失敗を繰り返さないような準備期間があることから、ドメネク監督もこのリトアニア戦の結果によってはその座が危うくなる可能性は少なくはないのである。(続く)