第954回 リトアニアに連勝(4) 流れを変えたくないリトアニア、変えたいフランス
■現状のメンバーで戦うリトアニア
これまでの本連載ではフランス代表メンバーに焦点を絞って紹介してきたが、相手のリトアニアを率いるポルトガル人のジョゼ・コウセイロ監督はこのフランス戦に向けて24人のメンバーを選出した。この24人はすでに代表に招集された経験のある選手ばかりであり、目新しいメンバーはいない。リトアニアとしては現在グループ7で2位、このままの調子を維持できればよいわけであり、ここまでの戦いで実績を残している選手を起用し続ければいいわけである。
■大多数は中堅国のクラブに所属、注目は主将のトーマス・ダニレビシウス
24人のうちリトアニアのクラブの所属している選手は2人だけであるが、残りの22人の所属クラブの国別の内訳をみると、ロシアが7人、スコットランドが4人、ウクライナが3人、ポーランドが3人、イタリアが2人、ルーマニアが2人、ハンガリーが1人となっており、いわゆる西欧のビッグクラブに所属している選手は少ない。
その中で最も注目される選手が主将のトーマス・ダニレビシウスである。現在はリボルノに所属しているが、かつてはイングランドのアーセナルに所属したこともある。イタリアのCFを務めるダニレビシウスは代表の試合に53試合出場、17得点とリトアニアのサッカーの歴史において歴代最多得点の記録を持っており、監督からもファンからも信頼は厚い31歳のチームの大黒柱である。
■2回目のピークを迎えつつあるリトアニア代表
ダニレビシウスの記録を見て、非常に少ない数字であると感じられた読者の方は少なくないであろう。現在のリトアニア代表が誕生したのはそう遠い昔のことではないからである。リトアニアはいわゆるバルト三国であり、その歴史については本連載の第695回で紹介しているとおりである。第一次世界大戦に独立し、代表チームが活動していたが、その後ソ連に併合されてしまい、歴史をいったん閉じた。
そして1990年に東欧の自由化の波を受けてソ連の15の共和国の中で最も早く独立を果たした。そして代表チームは1992年に実に55年ぶりの試合を行ったのである。リトアニアのサッカーにおいてその頂点は予選のグループで3位に入った1996年欧州選手権予選と1998年ワールドカップ予選である。それ以来、10年強の年月を経て、リトアニアは2回目のピークを迎えようとしている。
フランスとリトアニアの過去の対戦は第二次世界大戦前はなく、今からちょうど2年前、すなわち2008年の欧州選手権予選で同組に入ったときだけである。このときは3月にリトアニアのカウナスでまずフランスがアウエーゲームを戦い、10月に今度はフランスがホームに迎えている。カウナスの試合では今回は負傷によりメンバーから外れたニコラ・アネルカのゴールで1-0と勝利している。そしてラグビーのワールドカップと重なり、フランスは地方都市での開催を余儀なくされ、ホームゲームをナントのボージョワール競技場で行った。この試合も終盤まで両チーム無得点が続いたが、フランスはティエリー・アンリの2ゴールで勝利する。
■背水の陣のレイモン・ドメネク監督、大胆な選手起用
このようにフランスが、これまで2戦して2勝、しかも両試合とも完封勝ち、というと楽な相手に聞こえるが、リトアニア陣営はチーム力は2年前より上と公言してはばからない。一方のフランスは2年前より明らかにチーム力は落ちているであろう。
フランスの先発はGKがスティーブ・マンダンダ、DFは中央にウィリアム・ギャラスとセバスチャン・スキラッチ、右にバカリ・サーニャ、左にパトリス・エブラ、守備的MFにジェレミー・トゥーラランとラッサナ・ディアラ、攻撃的MFは中央はヨアン・グルクフ、右にペギー・リュインデュラ、左はフランク・リベリー、そして1トップは主将のアンリである。
前々回の選手の代表歴ごとの分布を考えると、大多数の選手が代表歴が浅く、20試合以上出場経験があるのはアンリ、ギャラス、リベリー、トゥーラランの4人だけである。そしてストッパーのギャラスとスキラッチはそれなりに代表経験があるように思われるが、この2人がストッパーのコンビを組むのはこれが初めてである。また、追加招集されただけで驚きとなったリュインデュラは先発メンバーに入った。リュインデュラはこれまでの代表での試合は途中交代ばかりであり、初めてのピッチでのラ・マルセイエーズとなった。名門パリサンジェルマンからフランス代表として試合に出場するのは一昨年のモロッコ戦におけるジェローム・ロタン以来のこととなった。
このように流れを変えたくないリトアニアと、流れを変えたいフランスという対照的な両国なのである。(続く)