第1029回 アイルランドとのプレーオフ(3) 44年前のコロンブ競技場でのプレーオフ
■グループ首位が指定席だったフランス、3位以下が指定席だったアイルランド
前々回の本連載ではフランスにとって11月まで本大会出場の決定が持ち越されたことは久しぶりであること、前回の本連載では1990年代以降において、フランスは最初のプレーオフであるのに対し、アイルランドは5度目のプレーオフであることを紹介してきた。
この10年あまりの間にフランスがワールドカップや欧州選手権のプレーオフに出場していないのは、各予選においてグループを首位で突破し続けているからである。一方のアイルランドも2002年ワールドカップ予選以降はプレーオフに出場していないが、フランスとは逆で、プレーオフに出場権となるグループ2位に届かないからである。
すなわち、今回の対戦は最近の予選でグループで3位以下だったアイルランドと、首位を保ってきたフランスがグループ2位と言う同成績になったため実現する。
■ワールドカップ予選で6回目の顔合わせとなる両国
ワールドカップ、欧州選手権の予選でフランスとアイルランドが同じ成績になったのはこれまでにたった1度しかない。この理由はこれまでにフランスとアイルランドはワールドカップ予選で同じグループに入ったことが5回もあるからである。一方、不思議なことに両チームが欧州選手権では予選、本大会とも一度も対戦したことがない。
本連載の第380回から第383回にかけて、フランスとアイルランドの過去の対戦成績を紹介しているが、アイルランドがワールドカップ予選に最初にエントリーしたのは1954年のスイス大会が最初である。以降ドイツ大会予選まで14大会連続して予選に出場している。フランスは、1998年大会は開催国として、そして2002年大会は前回優勝国として予選を免除されており、同期間に12回予選に出場している。このうちの5大会の予選(1954年スイス大会、1974年西ドイツ大会、1978年アルゼンチン大会、1982年スペイン大会、2006年ドイツ大会)で同じグループになっている。つまり、今大会は両チームが予選にエントリーする13回目の大会であるが、そのうちほぼ半数の6回の予選で顔を合わせているのである。
■アジアのシリアがボイコットし、スペインと一騎打ち
その唯一同成績となったのが、1966年のワールドカップ・イングランド大会予選である。欧州予選は9グループに分かれ、各グループの首位のみがサッカーの母国への渡航を認められる。グループ2のフランスはノルウェー、ユーゴスラビア、ルクセンブルグを押さえて首位になる。そしてアイルランドはグループ9、スペイン、シリアとチケットを争う。
このグループ9は一悶着も二悶着もあった。シリアは地域的にはアジアであるが、この予選ではイスラエルとともに欧州のグループに入っていたのである。当時は本大会出場チームは16チームであり、アジア、アフリカあわせて1チームしか本大会出場枠がなかった。1960年前後にアフリカでは独立し、多くのアフリカ諸国が予選にエントリーする。アフリカ諸国はアフリカ、アジアにそれぞれ1チームずつの枠を要求したが、FIFAは拒絶する。このFIFAの決定に対し、アフリカ勢15か国は予選をボイコットする。そして欧州のグループに入っていたシリアもこの動きに同調しボイコットしたのである。この結果、グループ9はアイルランドとスペインの一騎打ちとなる。
■1勝1敗でプレーオフに、コロンブで行われた試合はスペインが勝利
第1戦は1965年5月5日にダブリンで行われる。この試合はアイルランドがオウンゴールで先勝する。第2戦は同年10月27日、スペインのセビリアで行われる。この試合、アイルランドはイングランドのブラックバーン・ローバースに所属し、2年連続でイングランドリーグ(現在のプレミアリーグ)の得点王となったアンディ・マッケボイがゴールを決めるが、スペインは4得点を奪い、スペインが4-1と勝利する。現在のルールであれば、2試合通算得点でスペインに軍配が上がるが、当時は1勝1敗の場合は同点で1位となり、プレーオフで出場権を争うことになった。
プレーオフは翌年の本大会開催国ということでロンドンが候補地となったが、「アイルランドのファンが大挙する」ということでスペイン側が猛反対、結局パリ郊外のコロンブでプレーオフを行うことになった。11月10日にコロンブ競技場で行われたプレーオフは、逆にスペインの応援団が大挙する。この試合、ホームの利を得たスペインが1-0で勝利する。
このようにアイルランドは44年前にもフランス国内でプレーオフを経験しているが、敗れており、雪辱を果たしたいのである。(続く)