第1033回 ワールドカップ予選回顧 (1) ターニングポイントとなったリトアニアとの連戦

■フランス史上最多の12試合を戦った末の本大会出場

 アイルランドとのプレーオフも規定の時間内では決着がつかず、プレーオフのプレーオフとでも言うべき延長戦で、ティエリー・アンリの疑惑のハンドでの得点によりフランスはワールドカップ南アフリカ大会の出場権を獲得した。
 プレーオフ2試合を含む予選の試合数は実に12となり、フランス代表の歴史の中で最も多くの試合を戦った予選となった。今回の予選は最も数多くの試合を戦った予選として後世まで語り継がれるであろう。今回からこの予選を振り返ってみたい。

■3つのステージに分けられる今回の予選

 この長い予選であるが、昨年の9月にスタートし、実際には1年3か月という短い期間の戦いであった。この予選は3つのステージに分けて考えられるであろう。  最初のステージは開幕となった昨年9月のオーストリア戦から今年3月末と4月初めに行ったリトアニア戦までの5試合である。第2のステージは今年8月のフェロー諸島戦から10月のオーストリア戦までの5試合、そして第3のステージはアイルランドとのプレーオフ2試合である。
 3つのステージの分け方であるが、第1のステージと第2のステージの間にはシーズンの区切りがある。サッカーの世界においてシーズンの変わり目は選手の移籍などがあり、大きな環境の変化である。また第1のステージを終了した時点で日程的には半分を消化している。第2のステージはグループリーグの後半戦であり、第3のステージのプレーオフはホームアンドアウエー方式のカップ戦のノックアウト方式である。

■連勝して2位に浮上したリトアニア戦

 この12試合の中でターニングポイントとなったのが第1ステージ最後のリトアニアとの連戦である。
 第1のステージについてはアウエーとはいえ、いきなりオーストリアに対して黒星を喫する。伝統的に本大会後の成績の悪いフランスであるが、予選の開幕戦で敗れたのは1994年のワールドカップ米国大会予選のブルガリア戦以来のことであり、いきなり暗雲が立ち込めた。4日後のホームでのセルビア戦は勝利したものの、10月11日にブカレストで行われたルーマニア戦は開始早々に2点を先行され、ようやく追いついている。この3試合を終了したところで年が変わるが、3試合を終えて1勝1分1敗、勝ち点そのものだけではなく内容もよくなく、レイモン・ドメネク監督に対する風当たりも強くなった。今予選は昨年11月のインターナショナルマッチデーに試合がなく、リトアニア戦は10月のルーマニア戦以来5か月ぶりの真剣勝負となった。
 そして迎えたリトアニアとの連戦であるが、アウエーのカウナスでの試合を1-0と勝利したフランスは続くスタッド・ド・フランスでのホームゲームも同じスコアで勝利し、2試合で勝ち点を6上積み、2位に浮上し、それまで旋風を起こしてきたリトアニアを蹴落とす。今振り返ってみれば、この連戦で勝利したことがプレーオフへの足がかりを作ったと言える。また中3日で同一の相手と対戦するというのはプレーオフと同じ試合形式であり、このリトアニア戦を連勝したことがプレーオフの際のフランスのメンバーには隠れた自信となったと言えよう。

■準備試合無しで勝利したアウエーのフェロー諸島戦

 また、リトアニア戦の後も4か月半の間予選の試合がなく、8月12日にアウエーでフェロー諸島と対戦した。通常8月は予選ではなく、親善試合を行い、秋からの本格的な戦いに向けて準備をする機会となるが、今年は6月初めのインターナショナルマッチデーではグループ7の中でフランスだけが試合が組まれておらず、8月の唯一の試合としてフェロー諸島-フランス戦が組まれたのである。このフェロー諸島戦はリトアニア戦に次ぐ意味を持つことになった。
 最下位シードのフェロー諸島であるが、本予選は守りを固め、それまで6試合で2失点したのはセルビアとの2試合だけで、それ以外の試合は1試合1失点で乗り切り、オーストリア相手にはドローに持ち込んで勝ち点1を獲得している。決して侮ることのできない相手であったが、フランスはこの試合を1-0と言うスコアで乗り切り、9月、10月の試合に臨むことになった。このフェロー諸島戦も、シーズン開始直後で個人レベルでも十分に仕上がっていない段階に準備試合無しに、アウエーで力を蓄えてきた相手と対戦し、これまでで最低のスコアとはいえ勝利したことは大きいのである。(続く)

このページのTOPへ