第1125回 揺れるフランス、グループリーグで敗退(5) フランス政府まで巻き込んだ内紛劇

■ニコラ・アネルカを追放したフランスサッカー協会

 6月17日のウルグアイ戦のハーフタイムにレイモン・ドメネク監督に対してニコラ・アネルカが暴言を吐いたことが、19日のレキップ紙で報道されたことによって、チームは分裂した。19日にアネルカはフランスサッカー協会から追放処分を受ける。サッカーのルールには反スポーツマン的行為に対して警告あるいは退場という処分があるが、フランスサッカー協会はアネルカがハーフタイム中に監督に対して暴言を吐いたことを理由として南アフリカで戦っているチームからの追放を命じたのである。

■アネルカの追放に反発し、選手たちが練習をボイコット

 アネルカはハーフタイムにドメネク監督と口論になったものの、前回の本連載で紹介した放送禁止用語になるような言葉は使っていないと反論している。もちろん、ワールドカップの試合のハーフタイムともなれば極限状態である。そのような発言をしたことを忘れることもあれば、そのような発言があったと錯覚することもあるであろう。しかし、問題は前回の本連載で紹介した主将パトリス・エブラの発言である。エブラは「ハーフタイムに何が起こったかを公言した人間がチームの中にいる。その発言した人間こそ裏切り者だ。追放されるべきなのはアネルカではなく、その裏切り者である。」と主張したのである。
 ロッカールームの中には選手とスタッフ数人だけしか入っておらず、このエブラの発言はチーム内に動揺を与えた。
 アネルカの追放に対してエブラ主将をはじめとする選手は20日の練習をボイコットする。ワールドカップなどの大会期間中に選手がチームから追放されることが異例であるが、選手たちが練習をボイコットすることは一国の代表チームとしては考えられないことである。

■チームディレクター辞任、スポンサーの離脱

 練習ボイコットを主張する選手の代表であるエブラとフィジカルコーチのロベール・デュベルヌが練習場に集まったサポーターの見ている前で衝突する。この衝突を抑えきれず、チームは崩壊する。そしてこのチームの崩壊に対し、フランス代表のチームディレクターであるジャン・ルイ・バランタンは、パリに帰ると辞意を表明した。そして、20日の午後に予定されていた練習はキャンセルされたのである。そして、グループリーグの最終戦の南アフリカ戦もボイコットするというまことしやかな情報も流れたのである。
 この試合2日前の練習ボイコット、チームディレクターの辞任という異常事態に対して怒ったのはフランス国民である。フランス代表は国民のヒーロー、それがいとも簡単に自らの名誉と義務を放棄してしまったのである。そして21日には練習が再開されたが、練習着からスポンサー名が外された。またスポンサーはフランス国内でのコマーシャルの放映の自粛に踏み切った。フランス代表チームのスポンサーとなっていることはもはや名誉でも誇りでもないのである

■事態収拾のために乗り出したフランス政府

 今年の主要国首脳会議はカナダのハンツビルで6月25日から27日まで開催されるが、フランス外交筋にとってはこのフランスチームの大失態は痛手である。さらに来年のサミットは地元フランスのニースで開催される。ベルナール・クシュネール外務・ヨーロッパ問題大臣はこのフランス代表チームの泥沼化した状態に苦言を呈する。
 この問題を重く見たニコラ・サルコジ大統領は現地訪問中のロズリーヌ・バシュロ・ナルカン厚生・スポーツ大臣にチームに対応することを指示する。21日にバシュロ大臣は代表チームの宿泊しているホテル(大会前に副大臣に相当するラマ・ヤド・スポーツ担当大臣から豪華すぎると批判を浴びた)を訪問し、選手を集めて「モラルが崩壊している」「フランスのイメージを傷つけた」と選手に反省と奮起を求めた。
 このようにフランス代表チームの内紛は政界・財界まで巻き込んでの大きな騒動に発展したのである。(続く)

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