第2369回 ヒーローたちの帰還(1) 新技術の適用第1号となったフランス
1998年の「フランス・サッカー実存主義」で連載を始めて、早いもので20年たちました。第2368回が通算して2500回目の連載となりました。記念すべき節目の連載でフランスのワールドカップ優勝をお伝えできたことをうれしく思います。引き続きよろしくご愛読のほどお願いいたします。
■準決勝のベルギー戦に続き劣勢だったクロアチアとの決勝
2018年7月15日、この日はフランスサッカーにとって記念すべき日となった。2度目のワールドカップ優勝であったが、準決勝のベルギー戦、決勝のクロアチア戦といずれもボール支配率、パス本数、シュート数などの数値では劣勢のフランスが勝利した。特に結晶のクリアチア戦はフランスのボール支配率はわずかに34%、パス本数はフランス194本に対し、クロアチアは440本と2倍以上のパスをつなぎ、シュート数もフランスの7本に対し、クロアチアはちょうど倍の14本であった。しかし、枠内シュート数はフランスの6本に対し、クロアチア4本、シュートの精度が勝敗の分岐点となった。まさに準決勝までの展開と同じ結果になった。
■ワールドカップ史上初のVARで先制したフランス
ワールドカップ前に行われた最後の親善試合は6月9日にリヨンで行われた米国戦、本連載第2346回で紹介した試合でフランスは先制を許し、同点に追いつくのが精一杯で引き分けた。さらにオリビエ・ジルーが頭部を負傷し、暗雲の立ち込める中で開幕を迎えた。
初戦はグループCの中で最も力が劣るとみられた豪州との対戦、豪州はブラジル大会での反省をもとに初戦に全力を尽くすべく、合宿地のロケーションなどを見直してフランスに立ち向かう。フランスは手を焼き、前半は無得点に終わる。
そのフランスに勝利をもたらしたのは今大会から導入されたVARであった。54分にアントワン・グリエズマンが倒され、これがワールドカップ史上初めてのVARの適用となる。フランスにPKが与えられ、グリエズマンが決めて先制する。フランスはその4分後にサミュエル・ウムティティのハンドで逆にPKを献上、追いつかれているわけであり、もしもVARがなく、PKが与えられていなければ、第1戦で勝ち点3を取れず、ペルー、デンマークという強豪と対戦することになったかもしれないのである。そして首尾よく決勝トーナメントに進出しても2位通過の場合はクロアチアと対戦することになったのである。
■ゴールデンゴールも適用第1号は1998年のフランス
そう考えると、VARという新技術の導入がフランスの優勝への第一歩となったことは否めない。歴史をさかのぼるならば、20年前の初優勝、一次リーグを3戦全勝で勝ち抜いたフランスはランスでパラグアイと決勝トーナメント1回戦を戦う。この試合、90分戦っても無得点で試合は延長戦となる。延長も後半に入った114分、ローラン・ブランが右足で放ったシュートはゴールネットを揺らす。この大会からゴールデンゴール方式が採用され、延長戦で勝ち越し点が入った場合は、そこで試合終了となる。フランスはゴールデンゴール第1号の適用を受け、1回戦を勝ち抜く。奇しくもフランスは20年前と今回の大会で新ルールの適用第一号となりその後勝ち進んで優勝を果たしたのである。
また、決勝点でも史上初となる幸運に恵まれた。それは先制点となるクロアチアのマリオ・マンジュキッチのオウンゴールである。ワールドカップ決勝では初めてのオウンゴールでフランスがシュート数ゼロで先制している。
■ゴールラインテクノロジーも最初の対象はカリム・ベンゼマのシュート
一次リーグ初戦の決勝点はゴールラインテクノロジーによってフランスの得点が認められたが、このゴールラインテクノロジーはワールドカップでは前回のブラジル大会から導入され、その適用第1号は一次リーグ初戦のホンジュラス戦でカリム・ベンゼマのシュートを相手GKのノエル・バジャダレスが必死にセーブするが、一瞬ボールはゴールラインを通過しており、記録としてはオウンゴールとなったが、ゴールラインテクノロジーも第1号はフランスが関係している。皮肉なことにゴールラインテクノロジーはフランス国内では試験的に導入されていたが、今年1月に決定的な誤作動したことから、利用されないことになった。
ワールドカップを生んだ国フランスは新技術による恩恵を受けた第1号となったのである。(続く)