第1回 サッカー―――それはあらゆる階層の人々を虜にする
1月28日にスタッド・ド・フランス(フランス・スタジアム)のオープニングゲームが行われ、いよいよワールドカップも目の前に迫ってきた。この試合は、78,834人というフランスサッカー史上最多の観衆を集め、フランスは前回のワールドカップ以来一度も負けていないスペインを1-0で下した。日本が初めて出場するワールドカップ本大会はフランスで行われる。このコーナーではサッカーを通じて、フランスという国を少しでも皆さんに理解していただければ幸いである。
■競技人口はバレエ、自転車、サッカーの順
さて、フランスにおいてサッカーの位置づけはどうなっているであろうか。
よく欧州ではスポーツといえばサッカーだと思われているようだが、決して「スポーツ=サッカー」ではない。例えばフランスでは、競技人口の観点から言えば、サッカーはダンス(バレエ)、自転車に続く3番目のスポーツである。ダンスというのは意外かも知れないが、欧州では少年時には男性もバレエを行う。フランスでは女子サッカーがそれほど普及していないため、「するスポーツ」としては男女とも競技人口になりうるダンスや自転車がサッカーをしのぐのである。また、欧州の特にハイクラスの出身者の姿勢がいい理由として幼少時のバレエ経験があげられる。
一方、「見るスポーツ」としても78,834人以上を毎年集客しているイベントがワールドカップ期間中に二つある。例年7月の第一日曜日に決勝が行われるF1フランス・グランプリと7月中旬からフランス全土を興奮の渦に巻き込む自転車レースのツール・ド・フランスである。タバコ会社のスポンサー問題で今年はF1フランス・グランプリは中止となったが、ツール・ド・フランスはワールドカップ決勝戦前日の7月11日から8月2日まで行われる。「サッカーのワールドカップとツールではどちらに興味があるか」というアンケートをとるとツールの方に軍配が上がる。
■フランスのファンの約3割は女性
しかしながら、やはりフランス人の関心を最も集めるスポーツはサッカーであろう。それは競技として非常に単純であり、誰にも親しまれ、あらゆる階層の人々を引き込むことができるからである。
それではフランスのサッカーファンのプロフィールはどうなっているのであろうか。1992年から1997年にかけてBVA社が17,000人に行ったアンケートの結果を見てみよう。サッカーファンの数値とフランス全体の数値を比較してみよう。
まず、サッカーファンの性別は男性71%、女性29%。フランス全体の男女構成比は男性48%、女性52%である。サッカーが男性だけのスポーツという認識の多い中でサッカーファンの3割近くが女性である。サッカーファンの年齢構成は25才未満が16%(フランス全体では18%)、25才から34才17%(19%)、35才から49才が25%(26%)、50才から64才が22%(19%)、65才以上が20%(18%)となっている。やや高年齢層の比率が高いが、ほぼフランスの年齢構成をあらわしている。
職業構成についてはフランス全体の数字とやや異なる。上級管理職が12%(フランス全体では21%)、事務職および中間管理職が10%(14%)、商店・会社の職員が11%(9%)、工場労働者22%(25%)、退職者、失業者、その他が44%(31%)となっている。サッカーファンには上級管理職が少なく、退職者や失業者が多いのがわかる。しかし、自由・平等・博愛とはいうもののフランスは階級社会である。この階級のある社会でスタジアムに集まっている人のうち12%が上級管理職で、44%が退職者や失業者であるということは、ある意味では驚きである。この数値だけでかつてのイングランドのようにサッカーが下層階級のスポーツであるとまでは言えないであろう。ちなみにフランスの現在の失業率は12%、フランス全土で300万人以上の失業者がおり、失業者のデモについてはたびたび日本でも報じられている。
■大統領から失業者まで、ひとつのボールを見つめる眼差しは同じ
サッカー場に集まった人々はまさにフランス社会の縮図である。メインスタジアムにはVIPシートが用意され、キックオフとともにシャンパンが抜かれ、後半の開始とともにメインディッシュがサーブされる。ゴール裏にはサッカー場周辺で1フラン硬貨の無心を繰り返してようやくチケットを買った失業者がいる。そしてビッグゲームには必ず大統領以下政府首脳が姿を現すフランスにおいて、大統領から失業者まで同時に受け入れることができる空間がサッカー場なのである。そして、彼らの身なりや座席は違っても、ピッチの中を見つめる眼差しはみな同じである。サッカー場で彼らの表情を見るたびにこの国は自由・平等・博愛の国であると感じるのである。