第18回 フランス、ブラジルと決勝で対決
■フランス、クロアチアとの初顔合わせを制す
フランスにとって初の決勝進出に向けて最後の壁となったのはクロアチア。実はクロアチアとは初顔合わせである。今までの本連載でいくつかの国との過去の対戦成績を紹介しているが、今回の出場国のうち、フランスが過去に対戦したことがないのはクロアチア以外ではカメルーン、ナイジェリア、ジャマイカ、韓国、サウジアラビアのみである。ワールドカップの主流である欧州、南米勢で過去に対戦経験がない唯一の国との大一番となった。
クロアチアは旧ユーゴスラビアの解体に伴って誕生した国であるが、フランスサッカーとのつながりは深い。多くの優秀な指導者が東欧の自由化以前からフランスで活躍していた。現在のクロアチア代表監督のミロスラフ・ブラゼビッチは1980年代の後半にナントの監督をつとめた。また同時期のパリ・サンジェルマンの監督はクロアチア人のトミスラフ・イビッチであり、数多くのチームで監督を歴任し、今大会直前にイラン代表監督の座を解任されたことは記憶に新しい。
一方、選手については、現在フランスリーグのチームに所属している選手はまだ出場のないアルディアン・コズニク(バスティア)だけだが、フランス経験のある選手がいる。1990年10月17日のアメリカ戦でクロアチア代表の歴史に残る初ゴールを決めたのは当時メッスに所属し、準決勝でダボール・スーケルへの見事なラストパスを出したアリョーシャ・アサノビッチである。本大会のメンバーから外れたが、アレン・ボクシッチもフランス代表のディディエ・デシャン、マルセル・デサイー、ファビアン・バルテズとともにマルセイユで欧州チャンピオンズカップ決勝でACミラノを下した。
このように手の内を知られている難敵に今大会初めてPK以外の失点を喫し、先制を許しながらも見事に逆転勝利を収め、初めての決勝進出を決めた。
■ワールドカップでの、フランス-ブラジル戦
さて、決勝の相手はブラジル。前々回の本連載にもある通り、予想通りのカードとなった。前回優勝国と開催国という予選を免除されたチーム同士で決勝を争うのは初めてのことである。常に前回優勝国と開催国は下馬評の上位に上げられるが、今大会で現実のものとなった。
フランスはブラジルとワールドカップでは1958年大会の準決勝で対戦し、ペレにハットトリックを決められて、2-5で大敗し、三位決定戦にまわる。これ以後フランスは準決勝に2回進出したが、連続して敗退する。3回の三位決定戦への出場は複数回の優勝経験のあるドイツ、ブラジルと並んで最多である。この試合ではペレの素晴らしさばかりが話題になるが、現在のブラジル代表監督のマリオ・ザガロもこの時のメンバーであった。
フランス人にとってワールドカップでもっとも美しい試合と評価が高いのが1986年6月21日のメキシコ大会の準々決勝である。メキシコのまぶしい太陽の下、両チームは死闘を繰り広げ、延長戦でも決着がつかず、PK戦に突入する。先蹴のブラジルのトップのソクラテスがいきなりはずす。続くキッカーが次々と決めてフランスの4番手、ミッシエル・プラティニ。エースがはずし、3-3のままラストキッカーに。ブラジルのフリオ・セザールがはずして最後にルイ・フェルナンデスが成功させ、ガダルハラの決戦はピリオドが打たれる。フェルナンデスに駆け寄るプラティニの姿が印象的であった。
■ブルーより青いカナリア軍団
そして、1992年8月26日のパルクデプランスでの対戦はフランス人にショックを与える。6月のスウェーデンでの欧州選手権で惨敗したプラティニのフランス代表は新監督にジェラール・ウリエを起用する。夏場はワールドカップや欧州選手権の予選の日程は組まれていないが、9月から本格化するタイトルマッチの予選に向けてフランス代表は必ず8月には親善試合を行う。アメリカ大会の予選に向けてこの年の相手はブラジル。多くのブラジル代表選手が欧州に渡り、試合会場のパルクデプランスをホームスタジアムとするパリサンジェルマンにも三人のブラジル人選手が在籍していた。この試合、青いユニフォームのフランスは黄色いカナリア軍団に圧倒される。パリジャンは0-2と完敗したフランス代表のふがいなさにブーイングをすることすら忘れ、ブラジルのすばらしい戦いぶりに魅了され、ブラジルの控え選手のウォーミングアップにあわせて手拍子をするようになった。フランスのマスコミもこの日のブラジル代表に「ブルー(フランス代表のニックネーム)よりも青かった」と賞賛をせざるをえなかった。特にこの試合光っていたのはキャプテンのライーで、パリジャンにその存在を強く印象づけることになり、のちにパリサンジェルマンに移籍するきっかけとなる。
■フランス唯一の勝利のプラティニのゴール
長い歴史の中でフランスがブラジルに勝ったのはわずか1回で、通算成績はフランスの1勝3分4敗。(ワールドカップメキシコ大会でのPK勝ちは引き分けとカウントされる)唯一の勝利は1978年4月1日のパルクデプランスでの対戦。試合終盤の86分にプラティニがこの試合唯一のゴールを決めた。
大会組織委員長のプラティニが見守るワールドカップの決勝で、ブルーが20年ぶりの勝利と黄金のトロフィーを手にすることができるだろうか。