第39回 悲願達成!青い大砲、ウェンブリーで火をふく
■3月のウクライナ戦に向け着々と準備を
今年のフランス代表チームの最大の目標は来年の欧州選手権の予選突破である。もちろん予選グループ2位でも可能性はあるが、是非とも1位突破を狙いたい。最大の強敵と目されたロシアがブレーキ、3戦して未だに勝利できないでいる。それだけにフランスにとっては3月27日のホームでのウクライナ戦は山場となる。
3月のウクライナ戦を控えて新年から準備を重ねたいところであり、当初は1月の中旬にメキシコで各大陸のチャンピオンチームを集めて行われるコンフェデレーションカップに出場する予定であった。しかしフランスは、日程上の問題からこの大会の欠場を表明し、当初は日程変更という案もあったものの結局は中止になってしまう。
また、フランスは昨年11月に予定していたエジプト戦も日程上の問題から中止している。例年フランス代表はシーズン中は12月以外は毎月試合を行っているが、昨年10月14日のアンドラ戦以来の長い空白を迎えてしまうことになった。この空白を埋めるべく国際試合を検討し、日本遠征も候補に挙がったが、結局は1月20日にマルセイユでモロッコ戦、2月10日にウェンブリーでイングランド戦という2試合が行われることになった。
■各年代の代表チームでタレントを発掘する試み
この二つの親善試合については従来の親善試合と異なり、工夫が凝らされていた。すなわち同日に行われる代表チーム以外の試合の設定である。通常代表同士の試合がある場合、その当日の夕方もしくは前日に代表に準ずるチーム同士(オリンピック代表クラス)も試合を行う。モロッコ戦も、フランス代表がモロッコ代表と戦う日の午後にはマルセイユ近郊のマルチーグで両国のオリンピック代表同士が対戦している。
しかし、これだけではなく、フランス選抜とも言える「フランスA'」を96年3月以来ほぼ3年ぶりに編成し、前日に「クロアチアA'」とニームで対戦し、さらにジュニアB1(U-16)代表とジュニアB2(U-15)代表もポルトガルの同じカテゴリーのチームとオーバーニュで対戦している。すなわち2日間で5つの「代表チーム」が国際試合を行ったのである。
1月20日のモロッコ戦はワールドカップの初戦以来のマルセイユの試合で、熱狂的な応援が期待されたが、46,756人の観衆のうち12,000人はモロッコ人であった。フランス代表は後半立ち上がりのユーリ・ジョルカエフのゴールで1-0で辛勝した。しかし、スコアや内容よりもファンが不満を感じたのは、先発11人のうち10人がワールドカップ組であったことである。もともと複数の国際試合を組んだのはワールドカップ優勝後、世代交代が進まないという批判に答えて、タレントを発掘するために努力した現れであった。
■フランスがなぜか勝てなかった相手―――イングランド
2月10日に行われたイングランド戦も代表同士の試合と前日のオリンピック代表戦に加えて、フランスA'を編成し、ベルギーA'を迎えて試合を行うことになった。代表メンバーの中の目玉は、ロシア戦以来連続出場している19才のニコラ・アネルカとボルドーで好調なリリアン・ラスランドの復帰である。
一方、ボルドーのシルバン・ビルトールは、ランスのトニー・ベレルなどとともに25才前後の選手を中心に編成されたフランスA'に選ばれた。またワールドカップ組のティエリー・アンリ、ダビッド・トレズゲはオリンピック代表に回った。しかし、期待されたラスランドは2月6日のレンヌ戦で負傷、ビルトールがついに代表入りする。
フランスはイングランドに通算で6勝4分23敗と大きく負け越しており、直近の勝利は15年前の1984年のパリでの親善試合までさかのぼらなくてはならない。しかもウェンブリーでは勝ち星がない(4敗)ばかりか、いまだノーゴール(しかも13失点!)である。特に前回ウェンブリーで対戦したときは、フランスが2年10か月にわたって続けていた不敗記録をストップされた苦い記憶がある。しかし、欧州選手権の予選でも1勝1分1敗と決して好調ではなく、グレン・ホドル監督が辞任したばかりのイングランドに聖地ウェンブリーで世界チャンピオンとして勝つチャンスは十分ある。
ホドル辞任を受けて臨時監督になったばかりのハワード・ウィルキンソンは、シェフィールド・ウェンズデーやリーズで監督を務め「氷の男」と恐れられた。イングランドらしくクラシックな4-4-2システムで、ツートップはマイケル・オーウェンとアラン・シアラー。対するフランスは、月曜日に現地で合流したエマニュエル・プチとアネルカという二人の地元アーセナル勢が先発に名を連ね、ビルトールはベンチでキックオフを見守った。
■アネルカ爆発の2ゴール、聖地ウェンブリーで初勝利
両チームともがワールドカップの熱戦を戦ったメンバーがフィールドに立ち、80,000大観衆の中でキックオフ。前半は0-0で折り返したが、69分に均衡を破ったのは地元アーセナルに所属するアネルカであった。イングランドがショックから立ち直らない76分にもアネルカは追加点を奪う。アーセナルのFWはユニフォームの色とクラブのニックネームから「赤い大砲」と呼ばれるが、この日のアネルカが着ていたのは青いユニフォーム。まさに「青い大砲」が聖地ウェンブリーで火をふいたのである。
ウェンブリーでは、昨年11月の欧州チャンピオンズ・リーグでランスがアーセナルに勝ち、フランスのクラブチームが初勝利をおさめたばかりで、この世の勝利はそれに続く快挙である。しかし、アーセナルで屈辱を味わったばかりのアネルカが、この日は違う色のユニフォームを着てフランス代表チームの初勝利に貢献することとなった。
海峡の向こうで「料理は負けてもサッカーでは負けない」と自負しているロンドンっ子をついに負かしたフランス代表、ロンドンでもパリでもこの夜のワインの味は格別であっただろう。