第45回 ダビッド・ジノラ、年間最優秀選手ダブル受賞

■エリック・カントナ以来、2人目のフランス人受賞

 前回のこの連載で、現在トットナムに所属している元フランス代表、ダビッド・ジノラが地雷廃絶キャンペーンに情熱を注ぎ、フランスのサッカー界にも影響を与え、フランスリーグやフランス代表もこのキャンペーンを始めたことをご紹介した。そしてシーズン終盤となった4月末から5月初めに、ジノラ健在を知らせるニュースが海峡の向こうから飛び込んできた。
 まず、4月25日にはイングランド・プロサッカー選手協会が選出する今シーズンの最優秀選手にジノラが選ばれ、5月6日の記者投票でも最優秀選手に選ばれるという「ダブル受賞」の栄光に輝いた。選手投票は今年が26年目の制度で、5年前に悪童エリック・カントナ(マンチェスター・ユナイテッド)が最初の外国人選手として受賞したことをご記憶の方も多いであろう。ジノラの受賞はカントナ以来2人目のフランス人選手の受賞となり、発表の瞬間から会場は5分以上もスタンディング・オベーションが続いた。

■地雷廃絶キャンペーンで尊敬される存在に

 5年前のカントナも、昨年のデニス・ベルカンプ(アーセナル)も、現役の代表選手として活躍している選手がダブル受賞したことはあるが、今回のジノラは代表を離れてすでに3年半、異例の受賞と思われている方も少なくないであろう。選手投票は秘密主義が貫かれ、外部に情報が漏れにくいのであるが、下馬評ではマンチェスターユナイテッドで今シーズンすでに27ゴールをあげているトリニダード・トバゴ代表のドワイト・ヨークが有力視されていた。一方、ジノラのイングランドでの経歴は、1995年にパリサンジェルマンからニューキャッスルに移籍、1997年にトットナムに移り、4月末現在でプレミアリーグ4シーズン・119試合出場、今季は6ゴール。またチームもマンチェスター・ユナイテッドのように首位を争うのではなく、リーグ中位にとどまっている。
 こうした状況にもかかわらず、ジノラがヨークを押さえて選ばれたのには理由がある。この選手投票の締め切りは2月末。リーグでの上位進出をあきらめかけていたトットナムがリーグカップを獲得したのが締め切り直前の2月21日だったことはジノラには有利に働いたのだ。しかし、記者投票での受賞で、彼が運だけで受賞したのではないことが証明された。
 リーグカップではジノラは獅子奮迅の活躍をし、数少なくも非常に重要なゴールを決め、相変わらず印象に残る選手であることを思い出させた。それに加え、前回の連載で紹介したとおり、ジノラが地雷廃絶キャンペーンに尽力し、ジェントルマン中のジェントルマンであるイングランドのサッカー選手から同じスポーツマンとして尊敬されていることも忘れてはならない。

■失敗をバネに、輝きを増した選手人生

 ジノラはグラウンド上で「究極のエンターテイナー」「パルク・デ・プランス(ホワイト・ハート・レーン)のいとしい我が子」と言われているだけではない。「ジノラの予定表は大臣の予定表」といわれるほど政財界を含めた要人との予定で埋まっている。シーズンオフには要人を出身地近くのサントマキシムに集めてダビッド・ジノラ・チャレンジというゴルフトーナメントを開催し、収益を地雷廃絶キャンペーンに寄付している。また、「広告の申し子」といわれるほど多岐の業種にわたる広告に登場しており、男女を問わない幅広い層から支持されている。サッカー選手としての力やルックスだけではなく、親しみやすく、正直で、魅力的な人格が支持されているのである。
 ジノラ自身は、選手投票ではヨークが最優秀選手に選出されると思っていたようであり、今回の受賞を驚いている。ジノラはカントナが海峡を渡りこのタイトルを獲得した年に、フランスで全く同じタイトルを受賞している。それだけにジノラはこのタイトルの重さをよく認識するとともに、花のロンドン生活を楽しむのではなく、ワールドカップ優勝国の選手としてワールドカップに出場できなかった今年は人一倍努力するように心がけたのである。ワールドカップに出場できなかったこと(94年大会予選のブルガリア戦での失敗、98年大会のメンバー落ち)はサッカー選手として最高に悔やむべきことであったが、その悔しさを今シーズンのホワイト・ハート・レーンにぶつけたのである。

■ベストイレブンに4人が名を連ねたフランス勢

 さて、選手投票の結果は、ジノラばかりではなくフランスにとって嬉しいニュースが重なっている。まず、最優秀選手の投票ではジノラがトップ、2位は本命のヨーク、そして3位にはアーセナルのエマニュエル・プチが入っている。
 また、ベストイレブンであるがなんと11人中4人をフランス人選手が占めた。MFにプチとパトリック・ビエイラ(アーセナル)、FWにジノラとニコラ・アネルカ(アーセナル)が入っている。本来ならば拓海良さんが取り上げるべきことかもしれないが、参考までにベストイレブンを紹介すると以下の通りとなる。

GK ナイジェル・マーティン(リーズ)
DF ガリー・ネービル(マンチェスター・ユナイテッド)
ソル・キャンベル(トットナム)
ヤープ・スタム(マンチェスター・ユナイテッド)
デニス・アーウィン(マンチェスター・ユナイテッド)
MF デビッド・ベッカム(マンチェスター・ユナイテッド)
パトリック・ビエイラ(アーセナル)
エマニュエル・プチ(アーセナル)
FW ドワイト・ヨーク(マンチェスター・ユナイテッド)
ニコラ・アネルカ(アーセナル)
ダビッド・ジノラ(トットナム)

 さらに、この投票では最優秀若手選手も選ばれる。昨年はもちろんマイケル・オーウェン、一昨年はデビッド・ベッカム、3年前と4年前はロビー・ファウラー、5年前はアンディ・コール、さらにさかのぼればライアン・ギッグス、ポール・ガスコイン、イアン・ラッシュ、グレン・ホドルと錚々たるメンバーが名を連ねている。このすばらしいメンバーに新たに加わったのがアーセナルの青い大砲といわれるアネルカなのである。
 ジノラを含むフランス人選手たちがサッカーの母国イングランドの選手から高い評価を得たことは、ワールドカップ獲得とはまた違った意味でのフランスサッカーの栄光であろう。

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