第72回 近づくEURO2000

■間近に迫った今世紀最後のビッグイベント

 今世紀最後の大規模サッカーイベント、それがベルギーとオランダで共同開催される欧州選手権である。大会は6月10日に開幕、16チームを4チームずつ4組に分けたグループリーグ24試合、決勝トーナメント7試合が行われ、決勝は7月2日にロッテルダムで行われる。
 グループリーグの組み合わせ抽選会は、昨年の暮れに2002年ワールドカップの予選の組み分けと前後して行われた。フランスが予選に出場しない2002年ワールドカップの予選抽選会が新聞の片隅で報じられたのとは対照的に、12月12日にブリュッセルで行われた欧州選手権のグループリーグの組み分けは当事国として大きく報道された。

■組み合わせ抽選のもとになった出場国ランキング

 欧州選手権の予選組み合わせについては本連載第25回でご紹介したとおりであるが、その際、読者の皆さんから緻密なシステムで組み分けされていることに驚いたというお便りをいただいた。本大会の組み合わせについても予選同様、緻密なシステムが存在する。
 まず、UEFAは出場16か国をフランスワールドカップ予選と今大会の予選を合計した成績で1位から16位までランキングをつけ、1位から4位までを第1シード、5位から8位までを第2シード、というように4つのレベルに分けている。そしてそれぞれのレベルから1チームずつが4つのグループに組み合わせ抽選されるのである。
 ランキング1位と2位は開催国のベルギーとオランダが選ばれている。実質的なランキングトップの3位はスペイン(フランスワールドカップ予選は8勝2分、勝ち点26、欧州選手権予選は7勝1敗、勝ち点21でいずれもグループ首位)、4位のドイツまでが第1シードになる。続く第2シードにはルーマニア、ノルウェー、スウェーデン、チェコといった意外な中堅国が並んでいる。フランスが顔を出すのはようやく第3シード、ユーゴスラビア、イタリアに続きランキングは11位。欧州選手権予選のグループ2位で最高の成績を残したポルトガルが12位、第4シードにはプレーオフを勝ち抜いたイングランド、トルコ、デンマーク、スロベニアが並んでいる。
 このように予選突破だけではなく、予選の中で好成績を残すことが本大会の組み分けに有利になるようなシステムは、力の差のあるチームとの対戦にも全力を尽くし、予選突破決定後も選手のモチベーションを保つことにつながる。

■デシャンも認めるオランダの強さ

 欧州選手権予選でグループトップとなった国の中で最も低いランキングとなった世界チャンピオンのフランスであるが、抽選会の前に主将のディディエ・デシャンは決勝のカードはフランス対オランダ、グループリーグで最も対戦したくないチームとしてオランダをあげている。またデシャンはワールドカップと違い、欧州選手権ではノーマークのチームが旋風を起こすことも指摘し、92年大会のデンマーク(優勝)、96年大会のチェコ(準優勝)のようなチームは要注意である、とも発言している。
 オランダの実力についてはデシャンだけではなく多くの選手が認めており、開催国としてグループDが決まっているオランダと同じグループに入ることを避けたがっていた。
 しかし、弱気な発言をサッカーの神は見逃すはずはない。
 フランスはオランダと同じグループDに入ってしまった。しかも第2シードからはチェコ、第4シードからはデンマークと過去2大会で大活躍した国が入ってしまったのである。このグループDはグループA(ドイツ、ルーマニア、ポルトガル、イングランド)と並ぶ激戦区であり、このところフランスはワールドカップや欧州選手権の本大会では組み合わせに恵まれており、これだけタフな組み合わせは珍しい。
 しかもオランダ、チェコ、デンマークに共通して言えることは欧州選手権での成績がワールドカップに比べていいことである。オランダは88年大会での優勝の後、92年大会はベスト4、96年大会もベスト8に入っている。92年大会でユーゴスラビアの代替出場で優勝を果たしたデンマークは96年大会こそ決勝トーナメント1回戦敗退だが、84年大会はベスト4、88年大会もベスト8に入っている。またチェコスロバキアの分裂により前回大会からエントリーしたチェコはいきなり準優勝している。

■「激戦区」グループDでも悲観は不要

 このような強豪と対戦するフランスであるが、地元開催の84年大会は優勝したものの、前回大会は準決勝でチェコにPK負けしベスト4、92年大会はデンマークに敗れてグループリーグで敗退、88年大会では予選落ちして本大会に出場していない。今大会の組み合わせを見て悲観的になったフランス人は少なくはないはずである。
 しかし、データをひもとくと決して悲観的になる必要はない。実はこの三国との対戦成績でフランスが負け越している国はないのである。オランダとは過去の対戦成績はフランスの8勝3分8敗、チェコとは2分(96年欧州選手権準決勝のPK負けは記録上は引き分けとしてカウントされる)で、それぞれ互角、デンマークとは5勝1分3敗と勝ち越している。しかも直近の対戦については、オランダとは1997年2月26日にパリの親善試合で2-1で勝ち、92年の欧州選手権で苦汁を飲んだデンマークにも98年ワールドカップのグループリーグで対戦し、リヨンで2-1で下している。チェコとは前回の欧州選手権準決勝をマンチェスターで戦って以来対戦していない。
 ちなみに、世界チャンピオン・フランスとはいえ、国際試合の通算成績はようやく勝ち越している、という状況である。しかも通算成績で勝ち越したのはつい最近、1990年代に入ってから。先のワールドカップ出場国中、過去の対戦成績でフランスが勝ち越している欧州の国は半数以下である。
 さて、フランスは6月11日にベルギーのブルージュでデンマークと対戦、16日には同じブルージュでチェコと対戦する。過去2回の欧州選手権で最後の試合の相手となった2チームから確実に勝ち点6を獲得しておきたい。なぜならば21日のグループリーグ最終戦は、国境を越えてオレンジ色に染まったアムステルダムのアレナで、最も対戦したくない相手であるオランダが待っているからである。

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