第8回 ラグビー・フランス代表がスタッド・ド・フランスを本拠とする本当の理由

 5月16日のラグビーのフランス選手権決勝の終了後、スタッド・ド・フランスはワールドカップ開幕まで封印される。フランス選手権はクラブチームで争われ、グループに分かれたリーグ戦の後、決勝トーナメントに移る。例年パルク・デ・プランスで行われていた決勝は、今年からスタッド・ド・フランスにその場を移した。本連載の第三回に、スタッド・ド・フランスを本拠地とするサッカーチームは無いが、ラグビーのフランス代表はここを本拠地にすると記した。この理由はフランスにおけるチケットの販売方法やスポーツの普及状況と密接に関わっている。

◇五カ国対抗の成績(98.2.17~4.5)
2/7 フランス-イングランド 24-17
  アイルランド-スコットランド 16-17
2/21 スコットランド-フランス 16-51
  イングランド-ウェールズ 60-26
3/7 フランス-アイルランド 18-16
  ウェールズ-スコットランド 19-13
3/21 アイルランド-ウェールズ 21-30
3/22 スコットランド-イングランド 20-34
4/4 イングランド-アイルランド 35-17
4/5 ウェールズ-フランス 0-51

フランス選手権は5月9日に準決勝のツールーズvsスタッド・フランセ、ペルピニャンvsコロミエが行われる。

 フランス(欧州)でラグビーというと、その華は五カ国対抗である。日本でも、この五カ国対抗はサッカーのワールドカップよりも古くからテレビ中継され、1970年代以降のラグビーブームにも乗り、お馴染みのイベントである。1871年のイングランド-スコットランド戦を起源とし、1883年までにウェールズ、アイルランドも加わった四カ国対抗となり、フランスが加わり現在の五カ国対抗となったのは1910年のことである。対抗戦文化を背景にしているので、ホームアンドアウェーではなく、1年おきにお互いの国を訪問して試合を行い、各チームはホーム2試合、アウェー2試合の合計4試合を毎年行う。全勝するとグランドスラム、英国四協会の中で全勝するとトリプルクラウンと言われる。このところイングランド、フランスが優勢である。また、フランスは五カ国の中で唯一ワールドカップ以外での日本との対戦を国際Aマッチとして認定している国である。
 フランス代表は開幕戦で宿敵イングランドをスタッド・ド・フランスに迎えた。劣勢が予想されたが、24-17で見事に快勝、続くスコットランド戦でも51-16と大勝、ホームに戻ったアイルランド戦は格下相手に苦戦したが、試合終盤に18-16と逆転勝ちした。そして6度目のグランドスラムをかけ、イングランドと並んで最多の23回の優勝を誇るウェールズとウェンブリー(今年はカーディフが工事のためホームゲームをロンドンで行った)で対戦した。これに51-0で完封勝ちしたフランスは、今までにイングランドが3回達成しただけの2年連続グランドスラムを成し遂げた。フランス・サッカーはよく精神的な弱さを指摘されるが、ラグビーでは格上のイングランドに勝つだけではなく、ホームゲームや格下のアイルランド、ウェールズとの対戦では確実に勝利を収めている。

■サッカーとは異なるチケット販売方法と社会階層

 さて、五カ国対抗の観客層はサッカーとはかなり異なる。まず圧倒的に男性、それも大男が多い。試合開始前の国歌斉唱もサッカーの場合の数倍の音量の歌声が響く。すなわち、観客の多くはプレーヤーである。これはチケットの販売方法とも関連がある。五カ国対抗のような国際試合のチケットはクラブを通して販売され、クラブ関係者にしか渡らない。この販売方法は今回のワールドカップで、「サッカーファミリー」と呼ばれるプレーヤー登録者あるいはシーズンチケットのホルダーに優先的にチケットを販売したのと共通するものがある。また、5月末から行われるテニスのフレンチオープンも同様で、決勝などの土日のチケットは前年秋に行われるプレーヤー登録者への優先販売で売り切れとなる。
 五カ国対抗のチケットの販売方法は、フランスだけではなく他の英国四協会も同様であるが、観客層はパリとロンドンでは異なっている。パリではチームのジャージやカジュアルな服装に身を包んだ大男の姿が目立つが、ロンドンのトゥイッケナムでは、同じ大男でも揃いのブレザーにネクタイという姿が目立つ。フランスでは庶民のスポーツであるが、イングランドでは上流階級のスポーツである。サッカーが全ての階層のスポーツであるのに対し、ラグビーはプレーヤーの層が限られている。

■地域的にも偏ったフランスのラグビー人口

 さらに、社会階層的に偏りのあるラグビープレーヤーであるが、フランスでは地域的にもかなり偏りがある。パルク・デ・プランスやスタッド・ド・フランスに集まった観客の声を聞いていると発音の違いを感じる。フランスでは、ほとんどのラグビープレーヤーがスペイン国境のピレネー山脈に近い南西部出身であり、この地域ではラグビーはペタンクとならんでポピュラーなスポーツである。代表レベルだけではなくほとんどのプレーヤー、クラブはこの南西部に集中しており、唯一の例外はあらゆる地方の出身者が集まるパリである。(1978年に来日したフランス代表の最大のスターは金髪のフランカーのジャン・ピエール・リーブであったが、彼は1970年代唯一のパリ出身の代表メンバーである)
 したがって、ほとんどのチケットは南西部のクラブに割り当てられる。パリ及びその近郊のクラブに割り当てられるのはチケット全体のわずか一割である。ほとんどの観客は南西部から年に2試合の五カ国対抗を楽しみに飛行機や列車でパリにやってくる。また、アウェーの協会にもチケットが割り当てられるが、彼らは飛行機あるいはユーロトンネルを越えてパリにやってくる。
 このようにフランスにおけるチケットの販売方法とラグビーの普及状況を考えると、パリでの五カ国対抗の観客の大多数は南西部あるいは外国のラグビープレーヤーである。彼らはパリまでの交通手段として飛行機、列車といった長距離の交通手段を使わなくてはならないので、パリの玄関に近いスタッド・ド・フランスが好都合となる。ゆえにラグビーのフランス代表は、なかなか決まらないサッカーの住人に先駆けて、この新スタジアムを本拠地としたのである。

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