連覇を狙うフランス・サッカー ワールドカップ予選を戦うフランス-タヒチ、3度目の挑戦(後編)
■ワールドカップへの3度目の挑戦
そして、タヒチ3度目の挑戦は、初めて太平洋地域で行われる本大会を目指すことになった。2000年6月に5カ国で争われたポリネシアンカップでは4戦全勝、得点30、失点2という圧倒的な強さで優勝。12月には予選を前にして代表監督を豪州人のレオン・ガーディキオティスからフランス人のパトリック・ジャクメに交代する。ジャクメはフランスリーグ2部のバランスでGKとして活躍し、タヒチの強豪チームのビーナスに移籍し、プレーヤーとして数多くのタイトルを獲得。昨年から代表監督のアシスタントを務めている。
オセアニア地区のエントリーは10カ国。5チームずつの2グループに分かれるセントラル方式でリーグ戦が行われる。そしてグループのトップのチーム同士がホームアンドアウエー方式で代表決定戦を行い、その勝者が南米地区の5位とプレーオフを行うという、世界で一番広大な予選を戦うことになる。
タヒチは、ニュージーランドのオークランドで行われるグループ2に入った。最大のライバルはニュージーランドである。情熱の島らしい赤と白のユニフォームに身を包んだタヒチは、初戦でバヌアツを6-1と一蹴(いっしゅう)したものの、次のニュージーランド戦では、0-5と完敗する。残るクック諸島、ソロモン諸島との試合には完勝するが、全勝のニュージーランドには力及ばず、夢はわずか10日間で消えてしまった。
■タヒチのサッカーとフランス本土との関係
タヒチではマリンスポーツが有力であり、優秀なアスリートはマリンスポーツに流れる。また、観光資源が豊かであることから、経済的な理由で本土に移住することも少ない。海外県、海外領土出身の代表選手は、クリスチャン・カランブー(ニューカレドニア)、ベルナール・ラマ(ギアナ)、リリアン・テュラム(グアドループ)など数多く活躍しているが、タヒチの場合は1990年代初頭に活躍したパスカル・バイルアくらいである。バイルアはジャン・ピエール・パパン、エリック・カントナ、ダビッド・ジノラに次ぐFWの選手として22試合に出場した。交代出場が多かった代表選手としての活躍よりも、むしろオセールの選手として毎年欧州3大カップで上位に進出する原動力となっていたことの方が、日本の読者の方々も印象が強いであろう。そして現在、パスカル・バイルアの従兄弟にあたるマラマ・バイルアがナントに所属し、2000-2001シーズンのリーグ優勝に大きく貢献したことは記憶に新しい。
国政同様、サッカーの世界でも海外県、海外領土はフランスのシステムの中に組み込まれている。海外県、海外領土ではリーグ戦が行われ、各大陸協会主催のカップ戦にも出場しているが、海外県、海外領土の上位チームはフランスカップのシード扱いとなる。したがって、フランスカップでは7回戦あたりで本土のチームが大遠征を行ったり、逆に海外県、海外領土からフランスの地方都市に飛行機と鉄道を乗り継いで来訪したりするのである。また、フランスサッカー協会は海外領土のリーグ戦の優勝チーム同士で「海外領土クラブカップ」を開催し、決勝はフランス本土で行われる。昨年の決勝にはタヒチ代表のビーナスとレユニオン代表のサン・ルイジェンヌが進出した。
サン・ルイジェンヌは、アフリカ・カップ・ウィナーズカップで準決勝に進出している強豪である。決勝は9月2日にスタッド・ド・フランスで行われたがこれは、ディディエ・デシャンとローラン・ブランの引退試合となった、フランス対イングランドの親善試合の前座であった。試合の方はサン・ルイジェンヌが1-0とビーナスを下したが、遠来の海外領土の選手たちは欧州チャンピオンと面会し、大いに感激したのである。ビーナスは今季もリーグ優勝を果たし、ニューカレドニア代表のJSバスコを倒し、決勝進出を決めている。決勝の相手はレユニオン代表のUSSタンポン。前回、レオニオン代表のクラブに敗れているビーナスとしては、何とか昨年の雪辱を果たしたいところである。
フランス・サッカー協会は、海外県や海外領土のチームが本土で試合を行う道を開くだけではなく、本土同様若手の育成に力を入れており、U-15あるいはU-16のチームが本土で行われる大会に出場できるよう、タヒチの協会に財政的な援助を行っている。
“情熱の島”タヒチが、オセアニアやフランスだけではなく、世界のサッカーシーンに登場する日を期待したい。(この項、了)