アフリカ唯一のW杯初出場国――セネガル代表 未知なる「ライオンズ」の正体とは(中編)
並行する2つの大会に苦戦するセネガル
しかし新監督就任とともに幸運が訪れる
ワールドカップ予選でセネガルは、アルジェリア、エジプト、モロッコ、ナミビアと同じグループCに入り、主たるライバルはアラブ・アフリカの諸国となった。グループ首位のみが本大会のチケットを獲得できる。
また、アフリカの場合は来年マリで開催されるアフリカ選手権の予選も行われ、前回ベスト8に進出したセネガルは1次予選を免除され、2次予選ではトーゴ、ウガンダ、ギニアというアフリカ中部に位置する国々と同じグループ5に入り、こちらはブラック・アフリカがライバルであった。上位2位までに入れば本大会出場となる。
2つの大会の予選をほぼ同時期に戦うことになるが、セネガルの場合、ワールドカップ予選とアフリカ選手権予選で同グループとなったチームのタイプがまったく異なっていたのである。
この2つの予選で先に始まったのはワールドカップ予選であり、セネガルは昨年6月にアルジェリアとアウエーで対戦し、1-1のドローで発進する。続く7月にはホームに強豪エジプトを迎え、スコアレスドロー。9月に入るとアフリカ選手権の予選に切り替わる。トーゴを迎えてまたもやスコアレスドロー。10月にはギニアに乗り込み、1-0で敗れ、グループ最下位に沈むとともに、20世紀最後の公式戦を飾ることができず、4試合で1敗3分という成績を受けてドイツ人のピーター・シュニットガーが代表監督を辞任し、フランス人のブルーノ・メツが就任した。メツ監督の公式戦初陣は年が明けた1月のアフリカ選手権予選のウガンダ戦(アウエー)であったが、1-1のドロー。2月23日のワールドカップ予選のモロッコ戦(アウエー)も0-0と予選で6試合連続で勝ち星なしという成績であった。
ところが、3月に行われた2つのホームゲームで風向きが変わる。9日のナミビア戦(ワールドカップ予選)で4-0、25日のウガンダ戦(アフリカ選手権予選)で3-0と大差で完封勝ちを収める。また、ギニアがこの時期にFIFAから処分を受けて失格となったこともあり、ギニア戦の敗戦が帳消しとなり、幸運なことにトーゴに続いてアフリカ選手権への出場権を獲得してしまう。さらに、その結果としてセネガルにはワールドカップ予選一本に絞って戦う環境が与えられた。
3チームが得失点差を争う緊迫した戦い
最後の最後でつかんだ劇的なワールドカップ初出場
4月にはワールドカップ予選が後半戦に入るが、アルジェリアをホームに迎えて3-0と完勝。5月にはエジプトに乗り込んで0-1と惜敗するが、7月14日には首位モロッコとの決戦がダカールで待ち受けていた。モロッコはグループ2位のセネガルとエジプトに勝ち点6の差を付け、予選最終戦にあたるセネガル戦で引き分ければ本大会出場が決まってしまう。モロッコの王手が掛かったこの試合だったが、セネガルは1-0と見事に勝利し、前日にナミビアに勝ったエジプトと並んで首位モロッコとの勝ち点の差を3として最終戦を迎える。
最終戦は、エジプトはアルジェリア、セネガルはナミビアとそれぞれアウエーで戦い、アフリカサッカー連盟は2つの試合のキックオフの時間を同時刻に合わせる。エジプトもセネガルも勝てばモロッコに勝ち点で並び、得失点差の争いとなる。アナバ(アルジェリア)、ウィントフーク(ナミビア)での最終戦を前にした時点で、一足早く全日程を終えたモロッコの得失点差が+5、追うエジプトは+9、セネガルは+7である。前の試合でナミビアに8-2と大勝したエジプトをしのぐためには、セネガルは大差での勝利が必要であった。
メツ監督は攻撃的布陣を敷き、大量得点を狙う。この作戦が見事に的中し、15分にはパプ・ティオが先制点、23分にはエル・ハジ・ディウフが追加点、31分にはティオがこの日2点目を挙げる。この時点でアナバの試合は両チーム無得点、得失点差でセネガルは首位に立つ。しかし、54分にエジプトもPKを決めてリードし、勝ち点、得失点差とも並ぶ。5千キロ以上離れたウィントフークにもその知らせが流れた77分、カリル・ファディガがPKを決めて4-0、さらに5点目を80分にムッサ・エンディアエがマークする。一方のエジプトは80分にアルジェリアに追い付かれ、勝ち点は13にとどまった。
この結果、モロッコと勝ち点15で並んだ「ライオンズ」は得失点差で「アトラス山脈のライオン」と呼ばれるモロッコを上回り、歴史的なワールドカップ本大会初出場を独立42年目で決めたのである。(後編へ続く)